うつ病は本当に心の病気?それとも…。

「うつ病は心の風邪」と言うほどお手軽ではないにしても、精神疾患、つまり心の病であると言う認識は微動だにしないでしょう。

ところが、脳の一部の病変の結果起こる異常行動である、と言う考え方がこれから広宣流布するかも知れません。
身も蓋もない発想ですが、「幽霊と思えばただの枯れ尾花」と言う喩えもある通り、「何やら知らないが高い次元で起こるものだ」と思われていたものが、「身体の一部の病変が原因である」となれば、対処のしようも変わって来ようというものです。

その考え方は決して新しいものではありませんが、昨年(2015年)の10月に発表された実験によって確固たるものとなりました。

それは、理研の研究者によって行われた実験です。

理研内の精神疾患動態研究チームはミトコンドリア病という難病の患者の多くがうつ病や双極性障害の症状を示す事に着目しました。

ミトコンドリア病というのは、遺伝子の異常を原因とする、細胞内で栄養分をエネルギーに変換するミトコンドリアの一部が機能不になる病気です。
エネルギー需要が多い脳、骨格筋、心筋が異常を起こす事が多く、神経系、心臓循環系、眼科領域、消化器系に加え、新生児・幼児の虚弱や低血圧症など、年齢にも関係なく色々な部位で糖尿病、心臓機能不全、肝不全、難聴、失明、腎不全、筋脱力、疲労などの症状が、単独で、あるいは同時多発的に発現します。
10万人に9~15人の割合で発症すると言う統計があります。

チームは、この病気の原因である遺伝子の変異が神経系にだけ働く、要するに神経系だけがミトコンドリア病になるるモデルマウスを作成しました。
そのマウスの行動を観察したところ、年に2回、2週間ほど活動低下が持続する事に気づきました。
活動低下(睡眠障害・食欲の変化・操作緩慢・易疲労・興味消失・社会行動障害)が半年に1度、2週間にわたって持続すると言うのは、ヒトならばうつ病と診断されます。
事実、抗うつ剤を投与すると活動低下が緩和されました。

チームは活動低下の原因である脳内のミトコンドリアの異常が集中する部位を探索しました。
その結果、視床室傍核と言う部位に顕著に観察されました。
また、うつ状態を示すミトコンドリア病患者の視床傍部でも観察されました。
さらに、正常なマウスの視床室傍核を人為的に機能不全にすると、モデルマウス同様の症状が現れました。
その結果、モデルマウスのうつ状態が視床室傍核の病変により生じた事が決定的になりました。

ちなみに、視床室傍部(ヒト)・視床室傍核(マウス)とは、脳の中心部にある視床下部を形成する神経核の1つです。
恐怖に関わる扁桃体、報酬に関わる側坐核、感情の制御に関わる前部帯状回に神経線維でつながっているなど、感情に関わるほとんどの脳部位とつながりがあります。
うつ病の原因が脳を構成する部分、特に脊椎動物が出現した時代から活動していた部位のどれかが原因であろうとは考えられてきました。
それが上述の扁桃体なのか、側坐核なのかと議論されたいましたが、ノーマークだった視床室傍核(視床室傍部)である事が解明された事になります。

このモデルマウスは、外部からの操作なしに、自発的かつ反復的にうつ状態を示す、始めのものです。
このマウスを使えば従来とは異なる抗うつ剤や気分安定剤の開発につながる展望が開けます。

また、今後の研究で、うつ病や双極性障害の一部が、視床室傍部の病変で起こる事が証明できれば、「心の病気」で片付けられていた精神疾患が、脳の一部位の病変の結果起こる疾患ととらえる事ができます。
これは、新たな診断法や、治療法の開発につながる可能性を開く道筋となるでしょう。

脳の構造や機能が、脳生理学や他の部位の研究の進展によって、神秘のベールを剥がされ、他の身体の部位の疾患のように診断し、治療される時代が遠からずやって来るかもしれません。

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