ギャンブル依存症とうつ

パチンコ依存症者が受診しようとするときに頭に浮かぶのが、総合病院の精神科、メンタルクリニック、そして精神病院となるでしょう。
確かにその通りなのですが、数ある脳内活動となかでもパチンコ依存はそれほど高級なモノではありません。
と言うのも、パチンコに対する渇望現象は、脳内の物理的な変化である事が解明されているからです。

われわれヒトの脳内では、肉体を制御している神経伝達物質が、物質名を特定されているだけで数十種類分泌されて働いています。
代表的なものとして、ノルアドレナリン、ドパーミン、セロトニンが上げられます。

ノルアドレナリンは生存本能を司ります。
ストレスに反応して怒りや不安・恐怖等の感情を引き起こします。

また、交感神経を刺激して心身を興奮状態に擦る働きがあります。

ドパーミンは快楽を司り報酬系といわれています。
向上心やモチベーション・記憶や学習能力・運動機能増進に関与します。

セロトニンは精神を安定させる機能があります。
ノルアドレナリンやドパーミンの分泌をコントロールして暴走を抑えます。

ある大学の人間行動学の研究室で、パチンコに関する実験が行われました。

パチンコ依存症者の脳内における神経伝達物質の在り様は健常者と大きく異なるものでした。

依存症者の脳では、ノルアドレナリンとドパーミンが過剰に分泌され活性化していました。
それに対してセロトニンの分泌は抑制され、機能低下が顕著であることが観察されました。

つまり、依存症者はパチンコを行う時に、必要以上に興奮状態に陥り、なおかつその状態が長時間にわたって持続される事が観察されました。

同時に、神経伝達物質の1種で「脳内麻薬」と呼ばれるβ-エンドルフィンの分泌が顕著に観察されました。

この物質は脳内でモルヒネと同じような作用があり、鎮痛効果や気分の高揚・幸福感などをもたらします。
また、肉体的な痛みや疲労が高まると分泌され、肉体的・精神的ストレスを抑える働きがあります。

たとえば、マラソンなどで苦しい状態が一定以上続くと、そのストレスを軽減するために脳下垂体からβ-エンドルフィンが分泌され、やがて快感や陶酔感を覚える「ランナーズハイ」 と呼ばれる現象が有名です。

この物質はまた、おいしいものを食べたり、性行為を行ったり、好きな事をすると分泌され、身体をリラックスさせ、心を落ち着かせる感覚を与えます。
一方、なくなるとイライラし、身体がβ-エンドルフィンを欲するようになります。

パチンコ好きがパチンコをすれば、当然β-エンドルフィンが分泌されます。
パチンコに打ち込めば打ち込むほどβ-エンドルフィンの量は増加し、得られる快感も大きくなって行きます。
やめれば脳の興奮を沈静化させるコルチゾールと言う抑制物質の働きで興奮は一気に沈静化します。
しかし、快感を得たという記憶は脳にも身体にも残っているため、欲求が生まれ、欲求への衝動が抑えられなくなります。

したがて、パチンコ依存症者がパチンコを始めれば、気分は高揚し、集中力は無限に持続し、不自然な姿勢の維持にも苦痛を覚えず、時間の推移は意識からなくなり……となります。

パチンコのようなギャンブルは急速な興奮状態を得る事から、脳内に記憶が残りやすく、中毒性が高くなり、離脱するのに時間と手間がかかります。
脳内においては各種の麻薬を吸引したのと同様な感覚と言えるでしょう。

パチンコ以外にも競馬・競輪・賭けマージャンなどのギャンブルや、路上での暴走行為、リストカットなどの自傷行為のときにもβーエンドルフィンが分泌され、同じような現象が心身ともに揺さぶりをかけます。

これはギャンブル、暴走行為、自傷行為に限らず、行動依存全般に通底する現象です。

ギャンブルとうつ病の関係性

さて、パチンコ依存を含めたギャンブル依存症になってしまうと、金銭の有無に関わらずギャンブルにのめり込みます。
しかし、ギャンブルは勝てるものではなく、負けが込むたびにストレスが蓄積されていきます。
また、経済的不安や将来的な不安も付きまとって離れません。

人間の身体は過度のストレスがかかると、自律神経のうちの交感神経が過度に働いてバランスが失調します。
そうなると脳内の神経伝達物質の分泌にも影響を与え、うつ病を発症してしまいます。
また、ギャンブル依存症者はノルアドレナリンの値が高く、それがうつ病を発症させる要因になります。
つまり、ギャンブル依存症者はうつ病になりやすいと言う事です。

ただ、ギャンブル依存症者からうつ病になった人は、。
ギャンブルの時だけは意欲的に活動してしまいます。
しかし、これは依存症からくる病的な強迫観念に基づくものであり、うつ病そのものが治まったわけではありません。

そのため、負けが込んで来た時のストレスと、うつ病の自殺への傾斜が重なる時、悲劇が起こる事が少なくなりあせん。

ただ、うつ病の治療を優先するとギャンブル依存症が野放しになり、かと言ってギャンブル依存症の治療を優先するとうつ病が悪化してしまい、その後の人生をゆがめる事になりかねません。

この地獄から抜け出すためには、どのような方法があるかといえば、今のところは薬物療法と認知行動療法の併用しかないのが現状です。

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