パニック障害に対する非薬物治療へのアプローチ02
(2) 認知行動療法
認知行動療法は認知療法と行動療法の2つをひとまとめにしたものです。
「認知」とは「思い込み、とらえ方、とらわれ、考え、学習」といったもので、この認知の誤作動がパニック障害のパニック発作に続く予期不安や広場恐怖を引き起こします。
パニック障害の最初に出てくるパニック発作は、薬物治療や認知療法でその症状を、比較的早めに抑えることができます。
ですが、パニック発作に続く予期不安と広場恐怖が無害な状態にまで軽減するまでには時間がかかります。
と言うのも、予期不安と広場恐怖の原因そのものが「認知の誤作動」によるものだからです。
例として古典的ではありますが「電車が恐い」ケースです。
電車の中でパニック発作が起きたとします。
パニック障害は場所や状況とは関係がありません。
「電車に乗ったから発作が起きた」のではなく「発作が起きた時にたまたま電車の中にいた」と言う事です。
ですが、このような冷静な認識ではなく、「電車に乗ったからパニック発作が起きてしまった!!」と、間違って認識してしまいます。
パニック発作と電車は実際に関係がないのに、「電車=パニック発作」というような誤った関係づけ(これが認知)が生じてしまいます。
こうして、電車に乗ると「また発作が起きたらどうしよう……」と予期不安が湧き上がってきて、「電車にのることは避けたい」と言う広場恐怖が生じていきます。
この「電車=パニック発作」と言う認知の誤作動を修正していくのが認知行動療法です。
具体的な認知行動療法のの治療法として、広く使われているのが「暴露(ばくろ)療法(エクポージャー法:exposure method)」と言うものです。
患者が恐れている状況、避けたい場所に少しずつ慣れてもらう事によって、その状況や場所に対する不安や恐怖を取り除いていくものです。
手順を紹介していくと、次のようになります。
- (1) パニック発作や予期不安、広場恐怖が生じる仕組み、認知行動療法の効果などについて学習する。
- (2) 毎日の自分の状態を記録する。いつ、どこで、どのような状況で、どのような症状の発作が起きたかを。どのような刺激で発作が起こるかを客観的に観るためです。
- (3) 呼吸法や自律訓練法のようなリラックス法を練習する。刺激に対して過敏な反応をしないようにするためです。
- (4) 自分の感覚を必要以上に悪くとらえていないかを確認する。
- (5) 不安や恐怖を感じる場所に実際に行って、少しずつ慣らしていく。不安や恐怖のような誤った認知を修正するため。
(1) ~(4) までは、それほど心理的負担もなく進める事ができるでしょう(この際、かかる時間や費用は考慮の外に置くとして)。
問題は(5) の「不安や恐怖を感じ場所に行って慣らしていく」と言う、「暴露療法」です。
これに関しては、しつこく「電車が恐い」ケースを例にとって紹介します。
とは言っても、いきなり電車に20分、30分あるいはそれ以上も乗り続けるわけではありません。
あくまで治療ですので。
- (a) 家族と一緒に駅まで行く(電車に乗らない)
- (b) 家族と一緒に駅のホームまで行く(電車に乗らない)
- (c) 家族と一緒に各駅停車に1駅乗る
- (d) 家族と一緒に各駅停車に2駅乗る
- (e) 家族と一緒に各駅停車に3駅乗る
- (f) 一人で各駅停車に1駅乗る
- (g) 一人で各駅停車に2駅乗る
- (h) 一人で各駅停車に3駅乗る
- (i) 家族と一緒に急行に1駅乗る
- (j) 一人で急行に1駅乗る
- (k) 家族と一緒に特急に1駅乗る
- (l) 一人で特急に1駅乗る
- (m) 家族と一緒に特急に2駅乗る
- (n) 一人で特急に2駅乗る
- (o) 家族と一緒に特急に3駅乗る
- (p) 一人で特急に3駅乗る
- (q) 一人で特急に4駅乗る
と言うように、あくまで目安ですが、少しずつハードルを上げていきます。
じれったがって「2段3段飛んでしまえ」というのはNGです。
- 「各駅停車なら3駅まで大丈夫だった」
- 「お母さんと一緒なら急行でも2駅平気だった」
- 「一人で特急に乗っても1駅ならば発作が出なかった」
- 「特急3駅でも何ともなかった」
- 「1人で1時間乗っても平気だった」
そして最終的に「電車に乗ってもパニック発作が起きない。
あの時はたまたまだったんだな」と言うように、電車とパニック発作とは無関係だった事を理解する(認知の修正)事で、広場恐怖症をクリアしていきます。
考えただけで目眩がすると言う短気な人には、安易に薬物治療に走ると、もれなく一生ものの薬物障害が待っていると言わせていただきましょう。