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女性の発症率が高い『冬季型うつ病』のメカニズム

冬季型のSAD(季節性情動障害)もしくは冬季型うつ病(Winter Depression)と言うユニークなうつ病は、高緯度地方に冬季限定で高い発症率が報告されています。

アメリカではワシントン州のシアトル(アメリカ合衆国本土の西北端)で最も患者数が多く、その他、ブリティッシュキングダム、フィンランド、ロシアでも冬になると冬季型うつ病の患者数が一気に増加するそうです。
その有病率は人口の10%にも及び、女性の発症率が高く(男性:女性=1:4)、1度発症すると毎年冬になると繰り返します。

このうつ病の原因は何なのでしょうか。

上記の通り、高緯度地方の冬季限定で発症率が上がる事から、日照時間が身近くなる事が原因であると考えられています。

そしてそのメカニズムは、あくまで仮説の段階ですが、次の2つが上げられています。

  • (1) 日照時間が減るにともなって光の刺激が減る事で、神経伝達物資のセロトニンの分泌量が減り、脳の活動が低下してしまう。
  • (2) 体内時計を司るメラトニンが、日照時間が短くなる事で分泌のタイミングが遅れたり、分泌が過剰となるために体内時計が狂ってしまう。

(1) に関しては「うつ病」と来たら「セロトニンの低下」と言うのはすでに鉄版のフレーズですが、セロトニンと光の関係は、確かにセロトニン関係の文章を読んでいるとごく控えめながら必ず見る事ができます。

セロトニンは元来、太陽の出ている昼間に分泌されやすく、脳の覚醒を促します。
それに対して(2) のメラトニンは太陽が沈んだ後の夜に分泌されて睡眠を促す作用があります。

セロトニンとメラトニンが正常に機能すると、朝起きて昼間に活動し、夜になったら寝るという規則正しい、ヒト種本来の健全な生活リズムの裏付けになっていると言えます。

起床

ですから、セロトニンの分泌が低下すると同時にメラトニンが過剰になれば、うつの症状に加えて過剰睡眠が現れるのは、むしろ当然と言えます。

また、セロトニンは食欲を司る中枢神経において空腹・満腹と言う摂食の調整をしていますが、セロトニンの不足によって満腹中枢が機能せず、いくら食べても満腹感が得られなくなります。

いずれにしても、光量の不足により、概日(がいじつ)リズム(昼と夜のリズム)、深部体温リズム、メラトニンリズムなどが乱れて、全体として生体リズムが崩壊した結果として当該症状が発生しているものと考えられています。
元来が陽光に溢れるアフリカ原産のヒト種が、高緯度地方に移住した報いとも言えます。

そのため、冬季型うつ病の治療法は、他のうつの諸症状の治療にはないユニークなものになります。

それは「光照射療法」と言います。
患者に5000~10000ルクス程度の照度の光を30分~1時間照射するという治療法です。
この治療法の効果は70%以上の患者に効果が認められており、早い人の場合は1週間で効果が現れています。
また、光照射は朝に行う事が効果的だとする報告が多いため、朝に行うことが一般的です。

光照射治療法以外の治療法としては、一般的なうつ病と同様に、薬物治療法が行われます。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を中心とした抗うつ剤や抗不安薬などで治療が行われます。
また、薬物ではありますが、光照射法との相乗効果を期待して投与される薬剤としてビタミンB12製剤があります。
これは光の感受性を高める作用があるからです。

この治療法を考案した人物は、アメリカ合衆国の精神科医であるノーマン・E・ローゼンタール氏で、1982年のことです。
そのあたりの経緯は日本では1992年発刊の「季節性うつ病」(講談社現代新書)に詳述されております。

そこまで書いてきましたが、冬季型うつ病に関する認知は日本においては極めて低いことは否定できません。
つまり、冬になると定期的に気分の落ち込みや集中力の低下、眠りすぎ、甘い物への嗜好性の強まりなどを自覚していても、それがうつ病の一種の症状である事に気づかない人が多いと言う事です。

と言うのも、我が国は欧米諸国に比べて南方に位置しており、まさか高緯度地方の住人が患う病気にかかるなど、考えもしなかったのは事実です。

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